アートと寄付について、アメリカと日本の税制とマインドにおれる比較、日本で同様の制度とマインドになった場合の超ラフな試算編。
本編はこちら
※この記事だけ見られてるっぽいので、アメリカの連邦遺産税についてちょっと加筆しました

●アメリカにおける芸術分野への寄付金額
寄付金による各ノンプロフィットセクターへの支援が先進諸国中圧倒的に多いのはアメリカです。
2002年で約1.6兆円が芸術関連セクターへ寄付されています。(データ古くてすいません)
約1.6兆円という数字は、アメリカにおける寄付全体1の約6.5%。

●よくいわれる理由:節税効果
というのは間違ってはいないのですが勘違いされている点も多い。

アメリカの納税制度には概算控除と項目別控除がありますが、寄付をすると節税になるのはを項目別控除を選択している人だけです。項目別控除の選択者は約35%。つまり、65%の人はいくら寄付しようが納税額は変わらない。
項目別控除の人も、現金での寄付については相当分の所得を控除という仕組みなので100万円分寄付しても節税になるのは多くて35万。100万まるまる税金→寄付金になるわけではない。
参考までに一例を挙げると、アートセクターではないですがUnitedwayへの寄付者の41%は概算控除です。個別の寄付額はともかくとして、税制的に優遇されていなくても募金をするという意志が大きいということは読み取れます。

ただし、アートセクターに対してという限定であれば美術品の慈善寄付や売却にはちょっとした特典がつきます。
美術品売却時の課税は分離課税で28%ですが、美術品の慈善寄付控除適用税率は作品時価(保有期間が1年以下の場合は取得費)×通常の所得税率です。
結果、28%よりも高い所得税率で課税されている高額所得者は、美術品の売却代金を寄付するよりも、現物を直接寄付するほうが節税になる。
さらに、相続時売却においても相続発生時の時価×28%の優遇税率となるため、$10万以上の相続時には美術品を含む収集品の方が有利。
アメリカの高額所得者がアート作品に対して節税効果があると認識しているのは、そもそもこの税制があるからです。

※追記:2010年現在、ブッシュ減税により連邦遺産税(相続税は連邦遺産税と州税があります)が0になっています。2011年以降の2年間は500万ドル以上の不動産に対象を限定しての35%課税となりました。過去にも2001年の最高税率55%、障害控除額67.5万ドルから2009年までに最高税率45%、障害控除額350万ドルへと緩和されてきています。基本的に共和党が遺産税廃止積極派、民主党が反対派ということもあり、政権交代によってドラスティックに変化する税制の中でも大きな部分です。税制とアートについて考える場合には、都度現在と議論の対象とする時期の税制調査をお勧めします。

●もっと重要な理由 : マインドと自身の来歴
アメリカでの大学入学においては、成績と同等に最低1年間のボランティア履歴が重視されます。
ボランティアするなら楽しい事や好きな事の方がいい、ということで美術館や博物館でボランティアをする人は結構多い。
結果、社会に出て金銭的な余裕ができると元働いたところに寄付をするというサイクルが成立しています。
節税以前に、楽しい記憶や思い入れがあるところに対して寄付をするという意識が強い。

アメリカでは金銭的な余裕ができるまでの間になんらかの社会的な支援を受けた人が多く、自身が受けた支援を余裕ができたら社会に対して返済するという概念が浸透しているもの個人の寄付が多い大きな理由なのですけど。

●困っちゃう理由 : 強気な寄付の依頼
アメリカの家庭やオフィスには、11月から年末にかけて大量の寄付依頼がやってくる。手紙やメールだけならまだしも、電話もノーアポ突撃も普通。
つきあいのある教会や大学はもちろんのこと、一回行っただけの美術館や楽団、アンケートに答えただけのNPO、どうやって調べたのか謎ですが聞いたこともない団体から日本の携帯にまで電話がかかってくる。なぜか居住したことのないフランスやイギリスの団体からまで電話がかかってきて閉口するのですが…日本在住なのに。
しかしまあ、強気な依頼と多額の広告費が効果があるのも事実のようで、毎年途切れることのない年賀状のように依頼が来ます。
おそらく、この強気極まりない営業活動も寄付の多さには影響しているはず。

●日本ではどうなのか
実は税制上は「寄付金(所得金額の40%を限度)−5千円」が所得控除となるので税制上はアメリカより有利だったりするのですが、年末調整では控除できないため、「確定申告すれば」という前提があります。
さらに、認定NPO法人や特定公益増進法人への寄付以外は控除対象になりません。
文化庁 : 文化関係の税制について

控除対象を広げりゃいいのにとも思いますが、広げたとしても年間数十万単位で寄付する人やイヤでも確定申告しなきゃいけない人ならともかく、ほとんどの人にとっては確定申告する手間の方が寄付による控除よりも重いのではないでしょうか。

マインド的には言うまでもなく寄付という活動が世間に染みついているとは思えず、寄付先を選定するという認識にも欠けている。
そして各公益増進法人やNPOは寄付依頼の営業を全くと言っていいほどしていない(宗教法人を除く)。

●もしマインドがアメリカ並になったら
どのくらいの寄付が期待できるのか試しに試算するために、まあアバウトに納税所得者=寄付ができる余裕がある人とする。
アメリカの平成19年納税申告者数は143百万人。年末調整制度が無いアメリカでは、日本での個人納税者合計数4657.5万人2に相当。
Unitedwayへの概算控除納税者の平均寄付金額$101を参考にして、仮にアメリカ同様に70%3が1人あたり1万円を寄付すると考える。アメリカでの家計ごと寄付額総額は収入の2.1%に達するので、寄付をするという文化が根付けば決してオーバーな数字ではないはず。
結果、寄付総額は326,025百万円、アメリカでのセクターごと寄付額の割合にあてはめると、芸術セクターへの寄付は21,190百万円。+資産家の寄付が大きな上積み。

平成21年の文化庁予算は102,012百万円4

比率が芸術セクターまるごとなので寄付がどこに向かうのかはなんとも言えないが、単純計算すると文化庁予算に対して20%の上積みが期待できる可能性がある。
アメリカでは宗教セクターへの比率が高いこと、資産家の大口寄付を考慮に入れていない点を含めて考えれば、もっと大きな数字になってもおかしくはないのではないか。

しかしですね。増えたらどうなるのよ?が私の一番の疑問なわけです。
日本ユニセフの2008年度、日本国内で行われる広報・啓発活動等への賛助寄付金が7,700万円、開発途上国の子どもたちへの支援を目的とされた募金が170億円。
国境なき医師団の2008年度寄付金収入が31.3億円。
試算してみた芸術セクターへの寄付額は約212億。上記2団体の収入とほぼ同額になります。
…増えるのはいいけどいったい何に使うの?そもそもアートへの寄付っていくら必要なの?というのがさっぱりわからない。

以前から「芸術への寄付を損金対象に!」「税金の一部を投入先選択制にして芸術方面にもっと予算を!」と叫ぶ方々がいらっしゃるのは事実で、それはまあ悪いことではないんですが、いったいぜんたい何に使う気でいくら増えると思っているのかお伺いしてみたいものです。

  1. 寄付元の内訳は個人が約23兆円、法人が1.5兆円。
    寄付金の行き先は1/3が宗教団体、以下、教育、福祉、医療・保険、芸術・文化関連。 []
  2. 個人納税者のうち約16.7%が確定申告をしており、≒で寄付金控除の対象になりやすい人たちという事になる []
  3. 1999年のデータでなんですが、アメリカでは70%の家計が慈善団体に寄付をし、総額は収入の2.1%(寄付をした家計の平均は1,075ドル) []
  4. 一部の内訳を記載しておくと、
     新進芸術家やアートマネジメント人材等の育成予算として2,073百万円、
     文化発信のための国内基盤整備のうち美術館等活動の推進として37,248百万円、
     最高水準の舞台芸術公演・ 伝統芸能等への重点支援等として7,156万円。 []

One Response to “アートと寄付(アメリカと日本の税制とマインドにおける比較、超ラフな試算)”

  1. とても参考になりました。ありがとうございます
    寄付金はわたしだったら、芸術支援としてコンペの賞金とコンペによる展示費その経過をメディアに載せる経費に使います。
    簡単に言えば
    ・制作者の収入
    ・後につながる鑑賞者・ファンづくり
    に使いたいです。

    芸術文化が発展することは最終的には社会全体の利益として還元でき、芸術が社会のどの層でも身近な一部になれる可能性があると信じてるからです。そしてそのことにより経済も文化も悪くはならないだろうという希望があるからです。

Leave a Reply

(required)

(required)

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">

© 2010 兵馬の嘶き Suffusion theme by Sayontan Sinha